「ちょ、ちょっと待て。待ってくれ、大崎。ほんとに思い出せないんだ」
「あはは。違う違う」
有華が進から離れたとき、有華の右手には進の生徒手帳が握られていた。進の左の胸ポケットに入っていたものだ。
「生徒手帳?」
「そ、生徒手帳」
「生徒手帳…あ、あ!」
そうだ。あった。ここで生徒手帳を渡されたことがあった。生徒手帳を手渡されながら“大丈夫?”と 尋ねられたことが、確かにある。
「やっと思い出したか。あたしだよ、あれ」
自分の顔を指差して、有華は笑顔で首をかしげた。
2年の夏休みが終わった直後、部活を辞めると言い出した秋本翔一を説得し、殴られた拍子に胸ポケットから飛び出した生徒手帳を拾ってくれたあの女子生徒が。
「あれ、大崎だったのか。全然気づかなかった」
至近距離で触れ合った後遺症が、まだ進を蝕んでいる。心拍数は上がったまま、有華の笑顔に頭はくらくらする。

