スマイリー

「と、いうわけで、今日は自主休校だったわけ。あはは」



「まさか、お前ズル休みか?」

「そう。そのつもりだったけど、実際休んでみたらホントに風邪だったみたいでさ」



有華はチョコチップの付いたクッキーをかじって、へらへら笑った。



進は腹が立つどころか、何か逆に清々しい気分になった。



「大崎って…天然?」

「うるさいな。あたしに抱きついたことみんなにばらすよ」



「お…おい、勘弁してよ」



口に含んだ紅茶を吹き出しそうになって、進はあわててティーカップを机に置き、抗議した。



「冗談だよ。あたしだって恥ずかしいし」



「あ…あのなあ、お前あれで倒れてたら頭打ってたと思うぞ」



そう言いながら、その時のことを思い出した進は顔を少し背けた。顔が赤くなっているように感じたからだ。



「確かに。進は命の恩人かな」



有華が、いつもの屈託のない笑顔で言った。



「いや、そこまで感謝することはないけど。俺も課題手伝ってもらって助かったし」



「もう課題ためこんじゃだめだぞ!前島ぁ」



「それ、松野さんの物真似だったとしたら、全然似てないからな」

「うそ、似てない?自信あったのになぁ」



進は、有華の家へ行くように頼んできた美紅に少し感謝していた。



有華とこうして笑い合っていられるのは、間接的であれその場面を提供してくれた美紅に他ならないからだ。



進は、好きなのは有華の笑顔だけではないかもしれない、と、このときようやく思い始めたのだった。