スマイリー





途切れることのない人の波に身を任せて歩を進める進だったが、センター試験とはまた違う緊張感を今さらになって感じ始めていた。



最初の長文の、一番最初の英単語の意味をど忘れする自分、

古文の和歌の意味を、全く読み取れない自分、

円に接する直線の方程式の計算が何度やっても合わない自分、

しかも、周りの敵が黙々とペンを動かす中での自分だ。



嫌な想像をかき消そうと頭を力任せに振ってみるが、折り重なった不安が重みを増すばかりで、家を出るときは軽快だった足取りも次第に遅くなる。



そんな心情に呼応するかのように、ポツリ、ポツリと頬に水滴が落ちたかと思うと、ものの十数秒で本降りになった。



にわかに受験生の集団は慌ただしくなり、みな各々持参してきた傘をさして、それでもなお速度を落とさずに会場を目指す。



「しまった」



進は傘を持ってきていなかった。受験票や参考書などが入っている荷物はエナメル素材のスポーツバッグであるからひとまず濡れはしないものの、体を守る術はない。



雨と外気に体温を奪われ、体が冷え込む前に会場に着かなければ。試験前にこんなところで差をつけられては話にならない。



そんなことを考えながら出来るだけ足早に正門を越えようとした進の前にずいっと差し出されたのは、コンビニで買ったらしいビニル傘。



差し出したのは進も見覚えのある、黒髪セミロング美少女だった。