スマイリー

有華が淹れてくれた紅茶は、ほんのりと何かの花の甘い香りがした。甘みに僅かな苦味と酸味が混ざりあって、美味しかった。



「俺、こういうの詳しくないけど、美味しいと思う」

「ありがと。いい匂いでしょ」



そう言って有華はまた笑顔になった。本当に有華はよく笑う。本人だけでなく、相手をも幸せのうずに無理やり引き込んでいく。自然にこちらまで笑顔になってしまう。



そのあと、紅茶と在り合わせのお菓子を口にしながら、何の脈絡もない、他愛ない会話をだらだらと続けた。



英語担当の松野が、「小島あきら」を読み間違えて「小鳥あきら」と点呼したことや、今日有華が休んだせいで2時間目の古文の訳が誰もできず、担当の岩田が激怒したこと。



「岩田さん、『お前ら大崎がいないと全然ダメじゃないかー』だって。さすがにバレてたか、現代語訳教えてもらってるって」

「みんなは古文のときあたしを頼りすぎ。自業自得ね」



大笑いしながらしゃべる進に向かって、有華がピシャリと言った。



また、本当は有華のところへ行くのは進ではなく、松本美紅のはずだったこと。



「美紅の『急な用事』って、大概カラオケなんだよね。友達の体調よりカラオケが大事なんだから。自分が受験生ってこと、分かってるのかなぁ」



苦笑しながら有華がぼやいた。



「まぁ、たまには息抜きしたくなるだろ。最近休日も学校だしさ」



「確かにそうだね。あたし、この学校のシステム、あんまり良くないと思う」

「…と言うと?」



皿に山盛りになっているクッキーをかじりながら、進は詳細を尋ねた。



「いくら受験生っていっても、きちんと睡眠もとらないで効率よく勉強できるわけないのに。宿題が多すぎて休みの日も使いきっちゃうし、それに加えて自分の勉強をするんなら、もう睡眠時間を削るしかないんだもん」



そういうと、有華は小さく欠伸をして、目をこすった。



的を得た有華の理論に、進は感心して紅茶を一口飲んだ。