「石井コーチ」
「おっ、前島じゃないか。勉強頑張ってるか?」
体育会系特有のバカでかい声で、石井は進に笑いかけた。悩みを一切持っていそうにない、底抜けに明るい笑顔だった。
「ぼちぼちです。ご無沙汰してます」
「たまには顔出してくれよ。大学行っても陸上やるのか?」
「はい、一応そのつもりで」
「えらいっ」
背中をバシッと叩かれて、進は咳き込んだ。その明るさに巻き込まれて、いつの間にか悩みを忘れてしまいそうになる。
「みんなの様子はどうですか」
「相変わらず男子より女子の方が真面目だな、ははは」
「はは…すみません」
進は苦笑しながらまだ藍や大地たちのカラーが色濃く残っていることに、懐かしさを感じていた。自分たちがいなくなっても、部活が立派にまわっていることにはちょっと感激だ。
「おおっ、進じゃん」
「ホントだ。久しぶりだね」
心臓が飛び出るという感覚を、今リアルに知った気がした。
人を食ったような小生意気な口振りと、それとは対照的に穏やかなトーンをキープするその声。
振り返った先にいたのはかつての三本柱のうちのふたり。
中野大地と桜井敬太の両人だった。

