スマイリー

進たちの教室のとなりに、選択教室なるものがある。文字通り選択授業がある場合のみ使われる何の変哲もないただの教室だ。



終始無言のままそこへやって来たふたりは、手近な机にそれぞれ座った。



有華にいつもの笑顔はない。疲れた様子でうつむいている。



「日下部殴ろうとしてただろ。殴ってたら停学だったぞ?」



「停学なってもいいから殴ってやりたい」



進と目を合わせないように、有華は膨れっ面をすっかり日の暮れた窓の外へ向けた。



「日下部がよけなかったのは殴らせるためだったかもね。殴らせて、大崎は停学。内申書に書かれたくなければ東大受けろ、っていう作戦。どうよ」



「どうよって言われても」



まだいらいらの残った低いトーンで、有華は答えた。こんなに話しづらい有華は初めてだった。



「あー、その、帝四の過去問はまた今度聞くわ。今日はもう帰る。ごめんな」



進はどうにもいたたまれなくなって、有華の顔色をうかがいながら席を立った。



「待ってよ」



有華は教室を出ようとする進の学ランのすそを引っ張った。



「ねぇ。進はどう思うの?」



「何が」



「西京に行くことに、本当に進は賛成してくれてる?進もあたしは東大に行ったほうがいいって思ってる?」