スマイリー

有華を入り口のドアの方へとんっと押してやる。有華は進の顔をちらりと見ると、自分からドアに向かった。その際有華がぎらりと日下部を睨み付けたのは、見なかったことにした。



有華のあとに続いて、進は日下部に会釈をし、岡田の顔を少し見た。岡田は右手の手のひらを立てて、口だけで“ごめん”と言っていた。



進はそのまま回れ右をして入り口の方へ歩を進めるが、それを呼び止めたのは日下部だった。



「前島。聞いていいかな」



「何ですか」



進は振り向かずに、なるべく冷たく返事をした。



「大崎が東大を受けることについては?」



「大崎が嫌なら受ける意味はありませんね」



それ以上の質問が来ないように、進は答えながら前進した。



「合格率は?」



進はもう一度立ち止まり、今度は振り返った。呼び止めたのは松野だった。松野は腕を組んで、日下部の後ろから進を直視していた。



「万一受けるとしたら大崎の東大合格率は。どう見る、前島」



進は松野に向かってにやりと笑った。松野が自分に見せ場をくれた。そんな風に思った。



「200パーセント」



Vサインを突きつけて、そう断言した。



「ていうか英語だったら俺にも聞きにこいよ、ばかやろう」



松野もにやっと笑って、自分の仕事用の机についた。