スマイリー

職員室中の教員の視線が進に集まった。



日下部は立ったまま、目線だけを進に向けている。



有華は壊れた人形のように左手を上に挙げたまま身体をこわばらせて、まるで人の形をした死神にでも出くわしたような顔をした。



「えーーっと」



さっきからここにいました、とは口が裂けても言えそうにない。



「あー、その、英語でわかんないところがあってさ。あれだよ、帝四の過去問。教えてくれ」



たった今来ましたというような雰囲気を全力で出しながら、進はなるべくにこやかに有華に歩み寄った。



「あれ、なんか取り込んでました?」



白々しいと自分でも思った。ただ、有華を早くここから逃がしてやりたいとは思えた。なら、なんでもっと早く助けないのかと言われると、それは困るのだけど。正直、有華のあまりの剣幕に足がすくんでいたのだ。



「あ、岡田先生。俺、願書出して来たんで」



たまらず進は岡田に話を振った。



「ん、あぁ、そうか、うん。分かった。勉強の調子はどうだ」



岡田も相当きつかったのか、ほっとしたように笑顔になる。



「やっぱ甘くないですね。先生の言う通り、英語が勝負になりそうです」



挙げっぱなしの有華の左手を引っ付かんで、自分の隣に引っ張った。



「わっ」



力が抜けたのか、有華はよろよろと進のされるがままに隣まで引っ張られた。



「まぁ、大崎が教えてくれるそうなんで、期待してて下さい」



「ちょ、ちょっと。進っ」



「大人しくしてろ」



思い出したかのように暴れようとする有華に耳打ちすると、進は日下部に作り笑いを見せた。



「あー、すみません。話の途中でした?」



日下部は進を品定めするようにじぃっと観察すると、首を横に振った。



「前島、だったか?私は言いたいことは言ったよ。見苦しいところを見せたかな」



「そうすか。いや、僕いま来たところなんで。それじゃあ」



進はあくまで淡白に言い切って、日下部に敵意をちらつかせた。