スマイリー

“帝二大で、妥協ねぇ…”



つくづく自分とは格の違うところにいるのだ、有華は。そう進は再確認した。



帝二の方が、負担が少ない。有華にとってはそうなのだろう。進にとっては英語1教科で歩けないほどの負担だと言うのに。



「…妥協って何」



有華が閉じていた口をようやく開いた。小さな声に、煮えたぎるような怒りが圧縮されているようだった。



「帝二なら、負担が少ない?妥協する?何、それ」



有華の周りの空気がピリッと緊張した。



「帝二の負担が軽いかどうか決めるのは誰?帝二受験で妥協するのは誰?あんたなの?」



「受験するのは君だ。負担は東大と比べたら、の話だ。相対的に見て負担が少ないのは明らかだろう。妥協するのは私ではない。君と、我々、互いに譲るから“妥協”と言うのだろう」



有華の剣幕に対して、日下部はあくまで落ち着いてものを言っている。



「あたしは上の大学なんかに興味ない。行きたい大学に行くのがそんなに罪なの?」



「別に罪ではない。仮に西京が帝大ほどのレベルだったら、喜んで送り出したよ。能力のある者はそれを社会のために発揮する義務がある。罪なのは君の学力だ」



無表情のまま、日下部は抑揚のない声でそう伝えた。