今の日下部のセリフは、間違いではない、と進も思った。誰にでも行けるわけではない境地に、有華が立っているのは確かなのだ。
日下部は高校の先行きを考える立場にいるが、バカではない。有華の実力的に妥当な志望校を設定するように促している行為は、決して間違っていないはずだ。
「県内にこだわるなら、帝二じゃあダメなのか」
松野が腕組みして早口で尋ねた。
「帝二は…受けたくないです」
面食らった有華は、松野から気まずそうに目をそらして、小さく答えた。
「そうか」
松野はそれだけ言ってまた傍観者に戻った。
「受けたくない?帝二を受けたくても受けられない人間が、何十人といるんだぞ。今の言葉に、君は何も感じないのか。彼らを侮辱していることが分からないのか?」
日下部の強い言葉に、有華は何も言わず、黙秘権を行使し続けた。
「帝二ならば東大のように教科も多くない。負担も少ない。私たちも文句は言わない。妥協しよう」

