石井コーチを連れて来たのも敬太だ。
石井コーチは敬太の知り合いの社会人で、大学時代はトラック競技の全国区選手だった。
敬太が熱心に石井の元へ出向き、何度も頭を下げたのだという。
「笠松がちゃんと続けてますよ、“陸上部サブノート”」
「へえっ、そうなんだ。笠松は確か、炭酸を何種類か日替わりで飲んでたなぁ」
懐かしそうな口ぶりで、敬太はブラックコーヒーを一口飲んだ。
「…苦い」
「苦いんなら違うの飲めば良いじゃないですか」
敬太は笑みを絶やさずに人差し指をピンと立てた。
「苦いとまずいは違うんだよ、進」
そう言って敬太はもう一口、コーヒーをぐいっと飲んだ。
「…苦い」
その姿が面白いような、まぶしいような、とにかく進も笑顔になって、アイスココアをぐいっと飲んだ。

