スマイリー

「そしたら、翔一に殴られて」



「で、その赤いほっぺたってワケね」



にこやかな笑みを浮かべて、敬太は昇降口の前の自販機でブラックコーヒーを1本買った。



「飲む?」



敬太は自販機のわきに腰を下ろした進に、真っ黒に塗装された缶コーヒーを差し出した。



「あ、ブラックはちょっと」



「え?あっ、そうか。ごめんごめん」



そう言うと、敬太はもう1枚100円玉を入れ、オレンジに光るボタンのひとつを押した。



「はい、ココア。いつも飲んでたよね?」



「…ありがとうございます。知ってたんですか」



部活後や昼休みによく飲んでいたアイスココアの缶を、進はどうも、と軽く会釈して、それをもらった。



「部員の好みくらいはね。大地はコーラ、市川はお茶だったかな。翔一はいつも水筒で、オリジナルのスポーツドリンクを作ってきてたよ」



敬太はマメで、真面目で、地味だけどすごい。そう言っていたのは大地だった。



普段はどちらかと言えば無口で、部室でも自分からしゃべる方ではない。



しかし、敬太は学校に提出する部活動日誌の他に、独自のノートも作っていた。



ひとりひとりの種目、長所、短所、健康状態、推奨すべきトレーニング、その他得意科目や好き嫌いに至るまで、詳細に部員の情報を逐一書き留める。これは敬太が部長になってから始まったことである。