やっとのことで立ち上がると、すでに翔一の姿は西門の向こうに消えてしまった後だった。
殴られた拍子に飛び出した生徒手帳を通りすがった女子生徒が拾ってくれたようで、進が立ち上がったのを見計らって渡しに来た。
「大丈夫?」
「あ、大丈夫です、ありがとうございます」
ぼやける視界を何とかしようと目をごしごしとこすって、進は礼を言った。
「見ず知らずの人に心配されるほど腫れてるのかな」
女子生徒が西門に向かって行くのを眺めながら、進はひりひりと痛む左の頬をさすった。どうやら口の中も切れているようだ。
「くそ…翔一め」
悪態をついても翔一は戻ってこない。こちらも一発殴り返してやれば良かった、と、進はそう思った。
「あ、やっぱり進だ。何してるの」
そこへ昇降口からやって来たのが、桜井敬太だった。すらりと伸びた身長に、穏やかな笑顔。のんびり口調の陸上部前部長だ。
「あ…敬太先輩。委員会ですか」
「うん。今から帰るとこで…進?なんかほっぺた腫れてない?」
敬太は進の顔を覗きこんで、心配そうに尋ねた。
「いや、ちょっと色々」
「さっき二階の窓から進と、あれは翔一じゃないかな。とにかく、ふたりがしゃべってるのが見えたんだけど」
のんびりした口調を続けながらも、その表情は、そんな言い方では誤魔化されないぞ、とでも言いたげな真面目な顔だった。
「見てたんですか」
「うん。何かあったの?良かったら話してくれないかな」
表情を崩して、小さな子供と接しているかのような笑顔を見せる敬太。この笑顔に、自分たちは引っ張られてきた。いい部活だった。そう思うとなおさら、陸上部との関係を断ち切ってしまおうとする翔一に腹が立った。
進は敬太に、翔一が突然部活をやめると言い出したこととその理由、殴られた経緯などを事細かく説明した。
その間、敬太は口を挟むことも、相づちをうつこともなく、ただ、うんうんと何度もうなずきながら進の話に耳を傾けた。
殴られた拍子に飛び出した生徒手帳を通りすがった女子生徒が拾ってくれたようで、進が立ち上がったのを見計らって渡しに来た。
「大丈夫?」
「あ、大丈夫です、ありがとうございます」
ぼやける視界を何とかしようと目をごしごしとこすって、進は礼を言った。
「見ず知らずの人に心配されるほど腫れてるのかな」
女子生徒が西門に向かって行くのを眺めながら、進はひりひりと痛む左の頬をさすった。どうやら口の中も切れているようだ。
「くそ…翔一め」
悪態をついても翔一は戻ってこない。こちらも一発殴り返してやれば良かった、と、進はそう思った。
「あ、やっぱり進だ。何してるの」
そこへ昇降口からやって来たのが、桜井敬太だった。すらりと伸びた身長に、穏やかな笑顔。のんびり口調の陸上部前部長だ。
「あ…敬太先輩。委員会ですか」
「うん。今から帰るとこで…進?なんかほっぺた腫れてない?」
敬太は進の顔を覗きこんで、心配そうに尋ねた。
「いや、ちょっと色々」
「さっき二階の窓から進と、あれは翔一じゃないかな。とにかく、ふたりがしゃべってるのが見えたんだけど」
のんびりした口調を続けながらも、その表情は、そんな言い方では誤魔化されないぞ、とでも言いたげな真面目な顔だった。
「見てたんですか」
「うん。何かあったの?良かったら話してくれないかな」
表情を崩して、小さな子供と接しているかのような笑顔を見せる敬太。この笑顔に、自分たちは引っ張られてきた。いい部活だった。そう思うとなおさら、陸上部との関係を断ち切ってしまおうとする翔一に腹が立った。
進は敬太に、翔一が突然部活をやめると言い出したこととその理由、殴られた経緯などを事細かく説明した。
その間、敬太は口を挟むことも、相づちをうつこともなく、ただ、うんうんと何度もうなずきながら進の話に耳を傾けた。

