スマイリー

「まぁ、つまり、センターは出来たんだ。ホント、期待以上っていうか」



触ったらたちまち壊れてしまいそうな薄い笑顔を作って、有華が言った。



冷たい風が鼻先をびゅうっとかすめていく。



「良かったじゃん。なんでそんな浮かない顔してるんだよ」



黒のシンプルなマフラーを巻き直して、進は尋ねた。



「んー、なかなか先生方が折れてくれなくてさぁ」



言いづらそうに、進の表情をうかがうように、小さめな声で有華は答えた。



「西京行くのを許してくれないってことか?」



「うん、平たく言えばそうなるかな」



有華は学年でも指折りの勉強家で、いわゆる秀才だった。有華の学力や模試の結果から見るに、西京大学程度では、教師たちが満足するはずはない。



帝二大や、県外の有名国公立、つまり東都大を始めとする他の帝大、難関私大を受験して欲しいのが当然と言えば当然だ。



「なんとなんと、東都大学のボーダーを越えてしまってね。あはは」



「お前はとんでもないことをとんでもなく軽いトーンで言うな。それで、教師連中が二次試験で東大受けさせようとしてるってか」



「そう。困った困った」



有華が西京を第一志望としていることは、以前話したときに聞いていた。その理由はうまくはぐらかされてしまったけれど、県外に行きたくないと言うのが一応の理由であるようだ。



「東大とか、すごいと思うけどね、俺は」



コーヒーが空になって、進は有華の真似をして空き缶を放り投げた。空き缶は不規則な回転でゴミ箱に向かって飛んだが、そのふちにカランと当たって弾き返された。



「あれっ」



「はは。進、へたくそー」



屈託のない笑顔は、やはり少し曇っているように見えた。



「いつもは入るんだぞ、あれくらい」



なんだか、有華が無理に笑っているように見えて、その顔を直視できなかった。進は有華に背を向けて、空き缶を拾いに歩いた。



「…ねぇ、あたし、どうしよう」



しかし突如として背中に弱々しい呟きを受け、進の足は凍りついた。