スマイリー

有華は自販機の前で、小柄で華奢な体を目一杯小さくして、茶髪がかったショートヘアーをなびかせる冷たい風から身を守っていた。



「寒いなら昇降口に入れば良かったんじゃないの?風も来ないしここよりマシじゃん」



「ここ好きなんだもん。寒いけど」



「そうかい」



進は勉強用具の入った荷物を肩から降ろし、有華の隣、自販機にもたれ掛かるようにして立った。



「この前もこんな感じだった」



懐かしむように有華が言った。いつだったか秋も終わりがけの昼休み、進と有華はこの場所で言葉を交わしたことがあった。



「今回は逆だな。この前は俺が先にいたから」



「はは。じゃあ今回はあたしが飲み物おごってあげようか」



「いいよ、自分で買うから。はい、どいてどいて」



有華の肩をとんっ、と押して、進は小銭の投入口に500円玉を一枚入れた。



「おっ、とっとっ」



有華は少しよろめいて、自販機の真横までしゃがんだままぴょん、ぴょんと移動した。



「危ないなぁ、転ぶよ」



「そんなに強く押してないって」



進はブラックコーヒーのボタンを押して、商品と釣り銭を拾った。