教室を後にするあきらの背中を見送って、進は最後尾の窓際の席から改めて教室を見回した。
自習をしているクラスメイトは相川を含め十数人。
有華の姿はなかった。
ふと見ると、先ほどまであきらが座っていた席には、英語の長文の問題集が開いたままになっていた。
何回も同じ問題を解いているのか、それとも1回目でここまでやり込むのか、そのページは余白に所狭しと乱雑な書き込みがしてあった。真っ黒と言っても過言ではないほどに。
こういう努力を3年間続けたあきらと、3年の春から半年以上それを怠った自分。
また少し後ろ向きな気分になって、進は荷物を素早くまとめると、早足で教室を後にした。
二段飛ばしで階段を降り、何かに追われるように1階の渡り廊下を進む。
上履きから靴に履き替えて、昇降口から外へ踏み出したところで、足が止まった。
自販機の前にしゃがんでホットココアを飲んでいた少女と目が合ったのだ。
「よう、前島ぁ」
その少女は、いつもの笑顔で進に話しかけた。英語担当の松野の物真似で。
その少女の名は大崎有華。進の足が止まるのも道理だった。

