スマイリー

寒さ厳しい12月。



駅のホームに北風が吹き抜けるたびに、進は体を屈めて寒さに耐える。



「今日は色々収穫があったわ。また誘ってね」



「次は藍さんがおごってくれるなら、考えときます」



「じゃあもう二度と会うことはないわね」



「…会う度におごらす気ですか。一応先輩でしょ」



時刻は10時過ぎ。帰宅ラッシュの時間からはずれているからか、電車を待つ人数はまばらだった。



「大地に謝っとこうかな、ケンカしてから口きいてないし」



携帯電話をいじりながら、藍が独り言のように呟いた。



「いいんじゃないですか。アドレス知ってます?」



「知ってる。アイツ本当いま何やってるのかしら…進は何も知らないの?」



「さ、さぁ。それもメールで聞いたら良いんじゃないですか」



進がうやむやに誤魔化すと、それもそうね、と、藍は携帯電話をいじり終わったらしく、パタンと閉じてバッグにしまった。



大地が心学社にいるという話は、大地自身から聞いた方がいいだろう。



というか、藍のことが好きだった進にしてみれば、自分の口からは言いたくなかった、というのが本心だった。



それをきっかけに藍と大地が接近する、なんてことになれば、進はふたりの恋のキューピッドというところか。



本当に、自分は何をしに来たのだろう。



この日一番の虚脱感が、進を襲った。