スマイリー

藍は進の方へ顔を向け、にこりと笑いかけた。



「やっぱり、相談することも大切ね。進に誘ってもらえてよかった」



「相談?八つ当たりでしょ。俺結構怒られましたけど」



「そうとも言うわね。確かにストレスの解消にはなったかも。すっきりしたし」



モノクロだった声にいつもの色彩とメリハリが戻ってくる。



誰もが聞き惚れるであろうその美声が夜闇に溶けてはその闇を明るく染めあげてゆく。



「泣いたからすっきりしたんじゃないですか」



「誰が泣いたのよ」



「いや、藍さんが」



「泣いてないし。デタラメ言わないでくれる?」



いつものように、藍の右の握りこぶしが進の額を小突いた。ただ、今度の攻撃はいつもより少し優しく、痛くはなかった。



他方で進は、大地の気持ちを考えていた。



多分、大地は藍と同じ大学に行きたかったのだ。



心学社と西京を同時に受験することはできないから、藍が西京を受けた時点で、心学社を志望する大地が藍と同じ大学に進学することはなくなる。



おそらく大地は、藍にそのやりきれなさをぶつけたのだ。



その裏には多分、進が有華に対して持っている想いに似たものがあるはずだ。



大地は大地なりに藍にはたらきかけていた。



やり方は不器用極まりないけれど、全然まったく何も行動を起こさなかった進には大地は眩しく映った。



一方で、何もしないまま藍の卒業を見送った自分が、どうしようもなく情けなく感じた。