「高3の終わりにさぁ、大地とケンカしたのよ。大ゲンカ」
初耳だった。卒業式の後の陸上部3年追い出しパーティーでも、ふたりは普通に楽しんでいたし、進は大地とも話したが、彼はケンカについては何も言わなかった。
「センターが終わった後よ。あたし、心学社受ける気だったんだけど、結局西京に変えたんだよね」
「…えっ」
その言葉に、進は衝撃を受けた。
「心学社をやめて…西京、ですか」
「ん?うん。点数がギリギリで西京のボーダーにも届いてさ。受かる確率は低かったけど先生に勧められて西京受けることにしたんだ。そしたら大地のヤツ、それはそれは理不尽なまでに怒ってねぇ」
苦笑と共に藍は話を続けた。
「『教師に言いくるめられて、志望変えてんじゃねぇ!落ちたら県外だろうが。お前に一人暮らしは絶対無理だ!』なぁんて。バカにされた気がして、思い切り殴っちゃった。グーで。それっきり大地とは話してないけど、あいつの言う通りだったなぁ、あたしに一人暮らしは無理だったわ」
違う。
進は確信をつかんだ。
違う。そうじゃない。
一人暮らしを心配したわけじゃあない。
大地は藍に、西京にも県外にも行って欲しくなかったんだ。
進と同じだ。
進は知っていた。
大地の進学先は、心学社なのだ。

