スマイリー

「大地さんのこと、嫌いですか?」



「嫌い」



即答。



「そんなにですか」



「あんなヤツ幽霊より嫌いかも」



それは、大地にも特大のミドルキックをかましてやりたいと言うことだろうか。



「でも、部内では大地さんが一番藍さんのこと気にかけてたと思うけど」



「…え。そう、かな」



漠然と、進はそう感じた。感じたままに言葉にした。



大地は、部内においては後輩の教育係だった。ただしこれは明らかな人選ミスで、その後の陸上部の規律は大地のせいでやや乱れることになるのだが。



とにかくそのせいで大地は後輩と仲が良かったが、進は中でも一番可愛がってもらった自覚があった。



同じ長距離の選手だったこともあるが、何となく気が合ったのだ。



定期テストの過去問題を拝借したり、購買をおごってもらったり、ふたりで夜中にラーメンを食べに行ったこともあった。



だからと言うわけではないが、大地と話していると、やたら“市川”という言葉が出てくる、と言うことに、進は早々に気づいていた。