「まだ好きなんですか」
「質問禁止」
左半身に突然へそを曲げてしまった藍の体温を感じながら、進はため息をついた。
「彼氏がいなくたって、今後の人生が左右されることなんてないですよ」
「彼女と上手くいってるヤツに言われてもムカつくだけだわ」
藍はうなだれて、不満げに低くうめいた。
「大崎とは付き合ってませんってば」
「いずれそうなるんでしょ」
「それは俺には分かりませんって」
「何よ。好きなら自分から行動しなさいよ」
投げやりなセリフには、明らかな敵意を感じる。
「怒らないでくださいよ。慰めて欲しいんじゃなかったの?」
「ちゃんと敬語使え!」
藍の左手が進の太ももを思い切りつねった。ただ、藍の手は上質の手袋でくるまれているので、そう悲鳴をあげるほどの痛さではなかった。
行動が藍らしくない。いつもの余裕がない。進はこんな藍は初めて見た。
「…結構無理してきたでしょ」
つねられながら、進は呟いた。藍の手の力がふっと抜けたのを太ももが感じた。

