スマイリー

藍は怒ったように前を向いていたが、相変わらず体はぴったりと進にくっつけていた。



左半身だけが、藍の体温でほんのりと暖かい。



「別れたって…あの、あきらが見たっていう…」



「そう。その人。てゆうか、もっというとあきらくんに見られた日に別れたんだけど」



あきらは学校の最寄り駅で、藍が男と一緒にいた所を目撃したのだった。ただ進の記憶ではあきらは、ふたりが“仲良さそうだった”とかなんとか言っていたと思うのだが。



「表面上はね。まぁ、仲は良いのよ実際。ただ、付き合うような関係じゃなくなったっていうか」



「あぁ、なるほど」



「納得してどうするのよ」



「じゃあどうするんすか。ってゆうか何で怒られてるんですか、俺」



「慰めろよ、バカ。バカ進」



まだとんがっている口から発せられるその綺麗な声にいつものはつらつさは無く、藍はまるでテスト範囲を間違えて追試になった時のあきらみたいな、なんともいえない哀愁を漂わせている。



なるほど、だからあのとき藍は、進の“あきらが駅前で藍を見た、男の人といた”なんていう話に、「彼氏」とか「恋人」とかではなく、「好きな人」という言葉を使ったのか。