「何か、久しぶりですね。藍さん」
同時に強烈な懐かしさに襲われて、思わずそう呟いた。このセリフは、多分過去では言っていない。
「何言ってんの。今朝会ったじゃん」
「あ、そうか…。ええと、そう。部活。部活で話すのがね。このジャージ着て藍さんと話すのが久しぶりってこと、うん」
「…何か変だね、進」
苦しい言い訳なのは仕方ない。そもそも、まともな返答をしてくる藍の方がおかしい。これは夢のはずなのだ。
「こっちは藍さんが来るまでに色々あったんですよ」
そう、藍が部室に来るつい数分前まで進は今よりひとつ年上の悩める受験生で、日本史のセンター試験対策の時間に机の上で居眠りしていたはずなのだから。
「知ってるわよ。外で聞いてたもん」
「あ、いや、それじゃなくって」
「ていうか、あんたまた敬語が雑になってるわよ。それから部活中はなるべく先輩って呼んでってば。けじめとして」
「…すみません」
自然な会話が成り立ちすぎていることが、さらに現実感を増幅させ、進はいよいよ本格的にどちらが夢だか混乱してきていた。

