スマイリー

突如として男子陸上部部室に乗り込んできた黒髪セミロング美少女、市川藍は、中、高と続けて進の所属していた陸上部の先輩だ。時系列的に当時は女子陸上部の部長であるはず。



「何。何してんの、あんたら」



藍の口は真一文字に固く結ばれ、それと同じくらい固く両腕も胸の前で組み、鋭い目つきで進たちをにらんでいる。



そう。思い出した。
市川藍は怒っていた。
ものすごく。



「い、市川ぁ。落ち着けよ」



当時3年だった、中野大地(ダイチ)だ。部内の中心人物で、男子部の副リーダー的存在。



「あんたの声が一番聞こえたわよ、大地。『進。お前、市川に告ったんじゃねぇのかぁ』ですってね?あんたが1年のとき、何部の何年の誰に、いつどこで告白して、そして結果どうなったのか。明日には学校中に広まってるかもしれないわよ」



「ば…!お前、それは…勘弁してくれよ、なぁ…すみませんでした…」



藍は、大地の弱みを握っているようだった。周りの部員も驚きと恐れの混じった表情で藍を見ている。



「さ、さすが市川先輩」



「大地さんをああも容易く…すごすぎる」



「だまらっしゃいっ!」



藍の一喝で、座っていた進やベンチで騒いでいた部員も全員がビクッと直立。気を付けのまま恐怖で動けない。