スマイリー

夢というのは夢であって、まさしく現実ではないのであるから、たいてい、当然それなりの現実味を決定的に欠いているものではある。



だがその中で、圧倒的に現実感のある夢を見るときがまれにある。



その場にある物体の重量、質感、素肌に触れる衣服の感触、耳に聞こえる音、空気の匂い。



目が覚めてなお五感がその感覚を憶えているほどの異常なリアリティーを持つ夢は「創世夢」と呼ばれたりするが、まさか机の上に突っ伏す居眠り状態でそんな高品質なスーパードリームを見ることになるとは、進も予想だにしなかった。



ともかく、視界に映るこの景色から進は、これが例えば空を飛んだり魔法を使ったりするファンタジー寄りな夢ではなく、もっと現実に即した、ややもすれば現実と間違えてしまいそうな、限りなく日常に近い夢であろう、とまでは推測できた。



ありすぎるのだ。
現実感が。



進の視界に映るのは、妙に見覚えのある狭い部屋。左手には金属製の縦長なロッカーがいくつも並び、右手には塗装の剥げた鉄筋コンクリートの壁がひんやり冷たそうに空間を隔てている。



次に気付くのは、進が椅子に座っていること。正方形かつ木製の机をへだてて、正面に見覚えのある同級生の顔。



さらに、机の後ろにある窓の下にはプラスチックでできた安物のベンチが2台。5、6人の男子生徒がジャージ姿で座っている。



学校指定のジャージではない。さりげなく自分の身なりを確かめてみる。



なるほど。読めてきた。