もう感じることのないと思っていた地面を踏みしめたときの感触が、また、僕の中に帰ってきた。
自分が死んでいることを忘れるくらい広大すぎるこの世界の、見た目に劣らぬくらい綺麗な空気を思い切り吸い込み、ゆっくり吐き出す。
僕はしばらく、ただ呆然と大樹を眺めていた。
しかし、そんな幸せな時間は数分も続かず、新たな試練が僕の前に姿を現す。
本物か偽者か、青空を仰ぐようにして起きた風が、目の前の大樹を揺らした。
その大樹から、薄緑の長い髪をなびかせた女性が舞い降りて、静かに地に足を着いた。
ここが「楽園」ならば、彼女はきっと「女神」。
そして彼女は、口を開いた。
「1頭につき1粒、竜は涙を流す。」
いきなり発せられた彼女の言葉に、僕は無言で首を傾げた。
しかし彼女はそのまま言葉を発し続ける。
「この世界に存在する4頭の竜全ての涙集めし時、失った魂の輝きは、再び光を取り戻す。」
「戦え。」
彼女が言葉を言い終わった後、その背後から深く、低い声が響いた。
「死した幾億もの魂のなかで、生き返ることができる魂はたった一つ。」
「幾億の・・・魂?」
ますます意味がわからない。幾億も何も、ここにいるのは僕と彼女だけ。
「っ!!」
その瞬間、僕は言葉を失った。
人がいる。
それも、一人や二人じゃない。100万、いや、1億を超えることも・・・。
「剣を抜けっ!」
僕が目を丸くしていると、再び彼女の凛々しくも美しい声が響いた。
静まり返っていた空間に、たちまち人々の・・・魂たちのざわめきで溢れ返る。
「どういうことだ・・・」
「ここは・・・どこなんだ!?」
「ふぇ・・ん・・・・ママぁ・・・」
彼らの声を掻き消すように、もう一度、一際大きく響いた彼女の声。
「命を欲しろ!欲望を剣に捧げ、力に変えるのだ!思いと剣とが鳴動する時、扉は開かれる。」
全ての言葉を言い終える前に、彼女の体は軽く浮き、来た時と同じように、長い髪をなびかせる。
いくつもの光の球を、撒き散らせ、次の瞬間、彼女の姿はもうなかった。
途端に不安の声が、辺りを覆う。