しかも、血まみれの者、片腕、片足が無い者、全体の90%が大怪我を負っていて、僅か2,3人が、返り血に濡れていた。
彼らと、そして僕に当てられる、軽蔑と憎しみの視線。
きっと、竜の涙を奪う隙を狙っているんだ。
自分ひとりが、生き返るために。
しかし、周囲に満ちた恨めしい空気の中で、僕の前か、後かに扉を見つけた学ランの少年が、変わり果てた姿で大樹の前に横たわっていた。
左足を失い、なにも感じてないような暗い目で、機械のように涙を流し続けていた。
そして、その手に握られた青い球。
彼も勝ち取ったんだ。
生き返るためのアイテム・・・。
竜の涙を。
「奪い合え!」
唐突に響いた聞き覚えのある低い声。
辺りの血なまぐさい臭いが次々と消えていく。
見ると、周囲の魂の傷が癒えていく。
失った手足は、再び生え始め、周囲に歓声が上がった。
しかし、彼だけはやはり、変わらずに涙を流している。
何がそんなに辛いのか、僕にはわからなかった。
竜の涙を手に入れて、失った手足を取り戻して、他に不満があるとでも言うのだろうか。
これ以上、彼は何を求めるというのだろうか。
僕には、彼の行動が理解出来なかった。
「人としての肉体を取り戻すために、己が人であることを忘れろ。罪悪感に捕らわれるな。」
冷たく注がれる言葉に、僕は静かに頷いた。