そして、すぐに自分に言い訳をする、生きていた頃の悪いクセがでた。
(こんな状況で、他人を助けられるはずなかった。・・・しょうがなかったんだ。」
そう何度も言い聞かせた後に、僕は、今はそれどころじゃないことに気がついた。
牙についた赤々とした血を水で洗い流した水竜は、再びその白い牙を鮮血に染めようと僕に襲い掛かる。
「や、やだ。来るな!ぼ・・・ぼ僕は・・・。」
こみ上げてきた涙で、視界が霞む。
(僕は・・・。)
脳裏に浮かんだのは、目の前で散っていった魂の最後。
怖い。怖いけど・・・。
「・・・死にたくない!」
そうして僕はガチガチに震える手で、腰の片手剣を抜いた。
それを使いこなす知識も、剣をひたすら振り回す勇気も、僕にはない。
だったら・・・!
僕は、剣の矛先を、まっすぐ水竜に向けた。
水竜は、僕と、そして剣の矛先に向かって牙を向く。
「・・・っ!」
襲い掛かる恐怖に目を閉じた瞬間、何かが頬に付着するような感触と、瞬時にそれを忘れさせてしまいそうなほどの、これまでに感じたことの無いくらいの激痛が走った。
腹部から噴出した血が、僕の視野をどんどん暗く、狭めていく。
生きていたときの記憶が、流れる血と一緒に抜け落ちていく。
刃物に削ぎ落とされるように、手足の感覚が消えて、いつしか、痛みも感じなくなっていた。
死の感覚。
僅かに残っている記憶の中で、もっとも鮮明で、懐かしい感覚。