そして気づけば水竜は、いつの間にか僕の真横を通り越して、水しぶきを上げながら・・・天へ・・・・。
しかし水竜は、翼を広げることをせず、再び水の中に潜った。

いくつもの泡が、水面に浮かび上がる。
それに続いて、水流が口を大きく開け、鋭い牙を剥き出しにして、僕目掛けて襲ってきた。
「うわぁぁっ!」
反射的に僕は後ろへ仰け反ったが、ぼよよんとしたゼリーのような水の感触を感じながら尻餅をついた。
(こ、殺される!)
今すぐにでも逃げ出したい気分だった。
目の前の怪物が怖くてたまらない。
僕は何も出来ないまま、ただ足を震わせた。
その時・・・。
5,6個の魂が、僕の頭上から降ってきた。
たぶん僕と同じで、青い扉に吸いこまれた魂たち。
そして、状況を理解できずに、一点に固まって立ち尽くす彼らに、水底から黒い影が迫った。
「にっ!!」
逃げてと、僕は確かにそう言おうとした。
しかし、目前の恐怖に声が出ず、透き通った水が、魂たちの悲鳴と共に赤く濁っていくのを、僕は静かに見ていた。
たった数秒の間に、僕の中で「有り得ない」と言う一言が、何千回、何万回と繰り返された。2