「き、消えたっ!?」
僕と同じで、学ランを着た少年が、突如現れた4つの扉のうちの1つの赤い扉に吸い込まれた。
周りの魂たちも、僕と同じように目を丸くしている。
僕はしばらく彼が吸い込まれた扉を眺めていたが、ついに、険悪な空気の重さに耐え切れなくなり、前進を始めた。
僕が向かったのは、少年が入った赤い扉と、大樹をはさんだ向かいにある青い扉。
扉の手前で足の動きを止め、目の前のドアノブへ手を伸ばした。
そして・・。
「ようこそ、全てを洗い流す清らかな水の世界への入り口へ。」
髪も目も肌の色も、その全てが透き通る水色をした女性が、僕の前で薄い笑みを浮かべながら現れた。
まるで、全身が水で出来ているように。
「水竜イリュークは、どんな罪も許す優しき竜。鋭い牙に気をつけて。」
女性の言葉が終わると同時に、僕は風圧により、無理やり扉の中へ押し込まれた。

そして、僕が行きついた場所は、全てが透き通った透明な美しい水の世界だった。
信じられないことに、僕は水の上に立っていた。
水しかない世界。
そんな場所だったから、余計に目立ったのかもしれない。
僕の足元の水の奥深く、そこに、ほんの僅かだが、黒い影のようなものが見える。
それは、少しずつ近づいてきて、その本来の大きさも、形、色までもあらわにした。
硬そうな藍色の鱗を纏った胴体は魚のようでもあり、蒼白い羽からは鳥を連想させた。
竜・・・水竜だ。
水を掻き分けるように舞い上がってくるその姿の美しさに、僕は見入ってしまった。