だが、僕の足は、僕自身の予想を遥かに上回り、火竜の頭上をも上回った。
「うわわわっ!」
地面が無いことで、行き場を失った足が、空中で暴れまわる。
足と同じで筋肉のないこの腕は、剣を掲げるようにして上へ。
そして剣は、落下とともに振り下ろされ、見事、火竜に命中する。
噴出した火竜の血が、雨になって降り注ぐ。
一方僕は、それまでの勇者っぷりをぶち壊すようにカッコ悪い着地を決める。状況を把握できずに悲痛なうめき声を上げる火竜を前に、僕は呆然と、自分の足を見つめる。
(そうか。僕は今、魂だけこっちに連れて来られてるんだから、肉体が無い分何百倍も軽いんだ。)
自分勝手な納得を済ませると、僕は再び走り出す。
今度は逆・・・。火竜の、後ろへ・・・。
「やあぁぁぁぁっ!!」
叫び、斬りかかる。火竜の尻尾へ。
とはいっても、慣れない剣をがむしゃらに振り回しているだけであり、5回に1回は的をはずし、空を斬る。
それでも、ひたすら剣を振り続けた。
火竜は、痛みに耐え切れず、そのまま地面へ崩れ落ちる。
その隙を見て、岩陰に隠れていた魂たちも参戦。
我が先にと言わんばかりに、次々と剣を抜き放つ。
斬撃に斬撃を重ね、とうとう火竜の翼を纏う炎は消え果て、一際大きな叫びを上げた数秒後、粒子となって飛び散った。
最後にその場に残ったのは、僕を含める幾つかの魂と、それに囲まれるようにして、地面を転がる真珠のような輝きを放つ、赤い結晶。
「あれはっ!」