「…ごめんなさい、あたし余計なことを」


肩を落とすアナに、シュエラがゆっくり振り返った。


さっきの震えていた様子が嘘のように穏やかに笑っている。


『…いいんです。いつかこうなるって覚悟はしてましたから。

──あなたが私のことを庇ってくれて、とても嬉しかったです』


シュエラはアナを促して室内に戻った。


静かに乱れてしまった室内の片付けをはじめるシュエラに、アナは尋ねる。

「これから、どうするの?」

シュエラはそうですねと思案するふうに呟いて、片付けをする手を止め、

『マリに師匠の知り合いの魔術師がいますから、その方の元を尋ねてみます』


と安穏と言い、心配いりませんよとアナを安心させるような笑みを浮かべた。


『もう少し休ませて上げたかったのですが、こんな事になって。こちらこそ申し訳なかったです』

シュエラは丁寧に腰を折って頭を下げる。



アナは胸の奥がもやもやとした。



あの不思議な女の人の言ったことから考えても…欠片の謎を解く鍵はきっとこの人が握っている。

(でもあたしは…叔父さんに“これ”を捨ててこいと言われたんだ)


なぜだかアナは、このまま彼とこのまま別れてはいけない、と言う不思議な思いに駆られていた。


それは欠片のせいなのか、アナの罪悪感のせいなのか、それとも全く関わりのない何かの衝動に突き動かされているのか、アナにすらわからなかった。


シュエラは奇しくもマリへ…アナの次の目的地へ行くと言っている。


もう少しだけ、一緒にいることは許されるだろうか…?



「───シュエラ。

実は、あたしもマリに向かっていたの。

良かったら…迷惑でなければ、マリまで一緒に行ってもらえないかな?」

恐る恐る尋ねるアナに、シュエラは一瞬驚いたように目を見開いたけれど、その顔はすぐに嬉しそうな笑顔に変わった。

『…それは…奇遇ですね。

私で良ければ、ご一緒しましょう』





シュエラの笑顔は余りにも無垢で――魔術師と言うよりまるで天使のようだ。


アナはそんなことを思いながら、シュエラの子どものようにわかりやすい感情表現につられて笑うのだった。