アナは痛む足を引きずって男のもとに近寄った。

男のほうは目立った傷はなく、血が出ているようなこともなかった。
ちゃんと呼吸もしていて、アナはほっとする。


「ねぇっ。大丈夫?しっかりしてっ」


アナが男の肩をそっと揺すり、耳元に口を寄せて呼びかければ、程なくして身体が身じろいだ。


「…ん、う」


小さくもらす声に、アナが安堵のため息を着くが早いか、また部屋がゆらりと揺れた。

さっきの激しい地震に比べればささいな揺れだったが、アナは思わず縋るように男の頭を強く抱きしめた。

その息苦しさに男は目覚めたようだ。


『あの、苦しいんですけど』


困ったような声ではあったが、アナの胸に押さえ込まれているとは感じられない明瞭な声にアナは違和感を覚えた。

揺れがまた治まっているのを確認すると、しがみついていた腕を解いて男を解放し、思わず男の口元に注視する。


『大丈夫ですか?すみません…。私のせいで』


居住まいを正しながら答える男の口元はまったく動いていない。

不思議な光景に釘付けになったアナは男の言った言葉を聞き流してしてしまった。

色々と問いたい気持ちがせめぎ合いながらも、混乱した頭は何から口にしていいかわからないでいた。

安否を問いかけようにも、名前も聞いていない。

「あの、あたし、ジュカイのアナといいます。えっと…」


人に名前を問うときは自分から、と考えながら自己紹介するアナの意図に気付いた男は、自分の言った言葉をまったく流されてしまったことに内心面食らいながら、


『ここはシノの村。わたしはシノの薬師、シュエラといいます』


と丁寧に返した。