(誰かに助けられたんだ…。服もその人が脱がせてくれたのかな)


小さな室内に人の姿はない。

服を脱がせたのが女の人ならいいけど、とアナは今更どうしようもないことを考えて改めて部屋を見渡した。

寝るためだけの部屋のようで、アナが寝かされていた寝台のほかには小さな箪笥と机があるだけだ。部屋の主が男とも女ともつかない殺風景さだった。

そして、壁にかけられた黒っぽいローブに気付く。


(魔術師の家?)


この国でローブを身に着けるのは魔術師だけだ。不思議な力を持つ魔術師は、身分が明らかになるようローブを身にまとうことを義務付けられている。

アルゴールでは始祖が魔術師だったこともあって他国と比べても魔術の発達した国柄ではあるが、小さな山村からまともに出たこともないアナは生まれてこのかた魔術師を見たことがなかった。

アナにとって魔術師とは、人智を超えた力を持つ何か得体の知れない不気味な存在だった。
コクリ、と無意識に喉がなる。

魔術師のすべてが、強い力を持っていて恐れられる存在ではないことはないことは知っていても、出来れば、ただの農夫にでも拾われたかったと思ってしまう。