村を抜けて街道脇の水汲み場を横目に、アナは山を降りていった。

台地のようになっているこの辺りは、村を抜けるとすぐに急な下りの道になっている。
山道を下りた辺りは小さな森があり、それを境界線にするように、その先は海まで広がる平野だ。森を抜ければいつも行くマリの街までは近い。

(ひとまず今日中にマリを目指そう)

そのマリを基点に、山裾に沿うようにアシェントラとの国境になっているモルガ渓谷に向かう道と、反対に隣の領地アソンに向かう道、そして帝都ガイソールに続く道の、三つの街道があった。

(朝、村を出たのだから急げば日が暮れる頃にはマリに着けるよね)

いったん日が暮れてしまうと、野党の類だけでなく、森にいる獣に襲われる危険性が一気に高まるので、アナはいつもより道を急いだ。


急いだおかげで、アナは昼過ぎには森の入り口についた。

この森はアナの村の横を流れる川の潤いによってかろうじて緑を保っている。
アナの村では深い谷底に流れる川も、このあたりまで来れば幾分川幅も広い。崖からのぞけばごうごうと流れる波間の様子も見ることができるだろう。
しかし先を急ぐアナはそんな余裕もなく、川沿いの街道を早足で進んだ。

森の緑は実際の時間の明るさよりも、道を暗い影に沈めてアナを焦らせる。

(叔父さん達はもう戻ったかな。
本当にこれが神様を見つける手がかりなんだとして、ウーダンさんは何も見つけられないで大丈夫なのかしら?
それに…もしこれを捨ててたことがばれたら、叔父さんはただじゃ済まないんじゃ──)