(すごく綺麗な人だった。

父さん…に、似てた。

あの目、あの髪の色、笑ったときのあったかい気持ち──)

あたたかな涙がアナの頬を流れた。とめどなく溢れる涙に、アナは自分でも驚いた。

母が死んだ六歳の時から一度も――遺体もないままで父の葬儀をした時ですら泣いたりしなかったのに。

そっと指先でぬぐった自分の涙を眺めながら、アナは手のひらの血の跡が消えていることに気付いた。
血の跡どころか傷そのものがなくなっている。
反対の手にはしっかりとさっきの宝石の破片が握られていた。

夢ではないと改めて確信しながら、夢としか思えない不思議な状況にアナは動揺する。

(さっきのは、誰だろう?なにを言ってたんだっけ)

再び強い風が吹いて、アナはやっと帰らなければいけないことを思い出す。

仕事も家事も放り出してきてしまっていた。
きっと叔父も戻ってこないアナを心配しているだろうという考えにいたる。

アナは捲り上げていた袖を下ろし、上衣の内側のポケットに慎重に欠片をしまいこんだ。
小脇に抱えていた盆が再び飛んでいかないように両手で抱え込んで、潅木の小道に戻りながら、アナは服の布越しに肌に当たる欠片の固い感触が不思議と暖かいように感じていた。