そしてバレンタインデー当日。雪音が手に持っているのはバレンタインデー用に買ったチョコだ。中村のために用意してきたのだ。

隣の席なんだし、あたしが中村にチョコ渡したっておかしくないよね。うう‥でもやっぱり緊張して渡せない。だいたい中村がフリーじゃないと照れくさくて渡せないよ。
「ゆーきね」
後ろを振り返る。
「真由!」
「真由はもう大沢くんにチョコあげたの?」
「うん、大沢くん喜んでくれた」
「それよりその紙袋、チョコが入ってるんでしょう?」
雪音が「うん」とうなずく。
「せっかく用意したんだからちゃんと渡しなよ。」
真由‥

放課後。もう今渡すしかない!
「中村!こ、これあげる」
「え?」
「いっとくけどそれ義理チョコだからね!勘違いしないでよ。そ、それじゃあね」
ツンデレか。雪音は恥ずかしさのあまり廊下を走って帰って行った。はぁはぁ。渡しちゃったよー渡しちゃったよー。すっかりパニック状態である。

中村は雪音からもらった紙袋をあけてみる。するとチョコレートと小さな紙が入っていた。雪音がオレにチョコをくれるなんて思ってもいなかった。
「なんだ?この小さな紙」
そこには中村の似顔絵が描かれていた。雪音はこの前の約束を覚えていたのだ。
「あいつ、すぐに帰りやがって。まったくお礼ぐらい言わせろよな」
義理でも嬉しいよ。中村はそう思って帰って行った。