―つかつかつか
「…?」
無言で彼の横を素通りするあたし。
不思議そうに眼で追う。
ことんと楽器と鞄を置くと、そのすぐそばに置いてあった忘れ物コーナーみたいなとこから、消しゴム数個を手に取った。
―すここんっ
「いって…!」
……はい。
投げましたとも。
それがなにか?
「なにすんだよ!」
「あたしんこと気に食わないのは分かったから、もう黙ってくれない? あたしって“お金で何でも手に入るわがままなお嬢様”だからさ、気に入らないことがあると我慢ならないんだよね」
「…!」
「ごめんね“どうせなんにもできないお金持ちのボンボン”でさ。でもこれからもずっと見たくもない顔見てもらうよ。あたしは絶対帰らない」
「……」
『ま…マヒロ? どうかしたの?』
日本語だから、メイリー達には分からない。
突然消しゴムを投げつけたかと思うと、分からない言葉でペラペラしゃべり出したら、そりゃあ何事かと思うよね。
『なんでもない』
伏せ目がちにそう言うと、バイオリンを胸に抱えて席に座った。
今日は実技があるんだって。
久しぶりにバイオリンが弾ける。

