『こらこらみなさん、座りなさい!』
パンパンと手を叩く音と共に、女性の声が響いた。
まさに鶴の一声。
みんな一斉に、自分の席に戻った。
『あとで話聞かせてね』
最後にあたしにそう言って、パチンとウインクをした彼女。
どこかりんりんに雰囲気が似てる気がする。
『えー今年から二年、あちらの藤峰真裕さんが留学生としてウチに入ります。みなさん仲良くしてあげてくださいね』
ここはオーストリア屈指の音楽校。
宝院と名を連ねる名門校だ。
あすこと違うのは、ここには色んな年代の人がいるってこと。
あたしみたいに飛び級した人とか、学校を一通り卒業した後に音楽を始めた人とか、色々いるらしい。
さっきの、りんりんに雰囲気が似てる女の子は……あたしよりちょっと年上みたいだった。
『ねェ。あなたみたいな有名人が来るのは初めてなのよ』
『そうそう。ここは名ばかりで、大したやつはいないのよ。きっと日本のホウインのほうが実力は上だわ』
隣とそのさらに隣に座っている子が、机に肘をつきながらそう言う。
でも…ちょっと納得かも。
だって…宝院にはかっくんがいるんだもんっっ❤
「…きゃはっ❤」
思い出しただけできゅんっ。
会いたいな…かっくん。
『そういえばご婚約なされたのよね? おめでとう』
『えっ?』
婚約? ……ああ、そういえば。
そんなことになってたっけ。

