相手は真裕だぞ。
あの真裕だ。
んなもんその時勉強してても、その後はフランス語しか使ってねぇんだから…。
「とっっくに全部忘れてるに決まってる」
「……」
「……」
「……」
多少日本語もやったらしいけど、そのときだけ。
もう必要最低限の字以外は忘れ去ってるし。
「なんていうか…」
「…うん。どんまい」
「ああ、いたいた。探しましたよ星野くん」
「あ」
コツコツとヒールの音を響かせながら、お世辞にもいいとは言えない香水の匂いをまき散らしてやってきたのは、バイオリンの…。
「岬せんせー」
……である。
「ちょっといいかしら? 大切なお話があります」
「…? はあ…」
分からないまま答えると、「では」と廊下の向こうを手で指して先に歩いて行った。
とりあえず……付いて行ってみたり。
「いってらっさ~い」
「武運を祈る~」
「闘いに行くなんて誰も言ってないよ」
「……比喩やわ」
「使い方間違ってるね」

