――楓サイド――
……おせぇ。
なにが『おほほ借りるわねぇ~♪二時間くらいで帰るわっ』…だ。
もうすでに四時間は経っている。
なにをどうすればこんなに時間がかかるんだよ…。
一人家に取り残された俺は、イライラと時計を睨みながら真裕(と母)の帰りを待っていた。
昼の一時ごろに出て行って、今はすっかり夕方。
西の空は朱に染まり、気温も下がってきた。
「ハア…」
思わずため息をついてドッとソファに座りこんだ。
なにも……嫉妬しているわけではない。
時間が倍過ぎたからと心の狭いことを言っているわけでもない。
あのお袋は元々そうだから、初めから二時間で帰ってくるとはこれっぽっちも思ってねぇし。
ただ……ただ、心配してやってるだけだ。
母親の件があって以来、どこか暗いままの真裕を。
一週間ほどまったく眠らなかったし、今でも寝たり起きたりと結局睡眠時間はほとんどない。
時々、思い出すのか悲しげな表情になる。
今にも泣きだしそうな…儚げな表情に。
そうそう立ち直れるわけがねぇんだ。
それは俺もお袋も分かっていることで…だからこそ、気分転換のつもりで連れ出したんだろう。
家に連れてきた日、話を聞いてお袋は、泣きながら言った。
『代わり……っていう言い方は悪いけど、それでも代わりになってあげたい。どんなにかつらいことでしょう。少しでも…救ってあげられたらいいのに…』
真裕とお義母さんの運命はあまりに酷だ。
真裕もさることながら、お義母さんも相当つらかっただろうと思う。
ひょっとすると…今も、苦しんでいるかもしれない。
母親と娘というものは、親子の中でも特別だという。
互い思いを言い合えぬままに永遠に分かたれた。
真裕の心中は計り知れない。

