~悠人~



 その日の夜。


“アイツを殺した方が、何倍も楽じゃない?なんでこんな無駄なことするのよ?”


 闇夜にまぎれて、悠人は先咲さんの家を見張っていた。


 その姿は魔道師の正装というべき、漆黒のローブ。


 フードも目深にかぶり、顔すら見ることができない。


 月が出ていない曇りの闇夜の中では完全に擬態していて、遠目からではマズ見ることができないだろう。


 そんな悠人の肩には一羽のカラスが乗っている。


 悠人の愛すべき相棒。


 使い魔、カラスのシャーリーである。


 昨日の夜から、昼間の先咲さんの見張りと、オーバーワークも良いところだ。


 人間なら過労で倒れてしまうところを、憎まれ口を叩ける余裕がある辺り、さすが、魔族である。


「そんなことしたら、先咲さんの背後にいる連中がわからないままだろう?」


“ソレこそ、ローマ教会にでも頼めば?あなたは、ここの娘を殺して、アフリカあたりに逃亡すれば、コトは収まる話でしょ?”


 まったくだ。


 シャーリーの案は悠人ができる行為の中で、一番簡素で被害も少なく、妥当な選択だと言える。


 だけど・・・ソレだと、今日の朝、彼女と交わした約束を破るコトになる。


 ・・・・『私を守って』


 もちろんですよ。先咲さん・・・。