「あ、お帰り~。」


 家に帰り、玄関の扉に手をかけると鍵が開いていた。


 誰か中に居る!


 とたんに悠人が学校の一般人モードから、もう一つの顔に変わる。


 魔道師・・・・・桜沢悠人・・・。


 それが、高校生桜沢悠人のもう一つの顔であり、正体とも言うべき姿である。


 魔術師の母と錬金術師の父の間に生まれた悠人は、幼い頃から当然のように、魔術を習ってきた。


 非凡な才能と、類まれなるセンスを持ち合わせた彼は幼き頃は大魔道師ファウストの再来とまで言われたほどである。


 故に・・・・悠人は小さい頃から敵に狙われていた。


 魔道師の本場、ロンドンからこんな極東の国に移り住んだのも、ひとえに外敵から身を守るためである。


 だからといって、この国にいれば絶対に安全というわけではない。


 それゆれ、玄関の鍵が開いているなんて異常事態に、平然としていられるわけがなかった。


 しかし、警戒しながら中に入って見ると、そこにいたのは、1年ぶりに見る懐かしい顔・・・。


「なんだ・・・姉貴、帰っていたのか?」


 ロビーでくつろぐエリザベス姉貴の姿。


 意表をついての顔見知りの顔に、悠人は安堵の溜息を漏らす。


 Tシャツにジーパンという、ラフすぎる恰好で、ソファーに横になって、テレビを見ながらアイスをくわえている姿は、弟の自分から見てもだらしない。


 これじゃあ、男の影が出来るのも、しばらく先だろう。