“あら?久しぶりね、ティアム”


 悠人の呼びかけに対して、彼の前に降り立ったのは一羽のカラス。


 シャーリーと名乗る彼女は、悠人の使い魔。


 2年前、偶然にも下級魔族に魂をのっとられたカラスを悠人が見つけ、そのまま手なずけたのだ。


「その名前で呼ぶなよ。下級魔族の癖して・・・」


“下級でも、魔族は魔族よ。だからあなたは唯一、私にだけは偽名を使えない。何度も確認したはずだけど・・・。”


 悪魔特有の言葉。


 魔法使い、もしくは有能な法霊術師でなければ、彼女が何を話しているのか、分かることはない。


「分かってるよ。ソレより、頼みたいことがあるんだ。」


“もしかして、今日あなたが髪の毛を持って帰って調べていた女性のコト?”


「見てたのか?」


“暇だったからね。・・・髪は女性の命よ。ソレを盗んで調べるなんて、変態みたい。”


「うるせぇよ。だったら、用件は分かるだろう?」


“まあね。”


「だったら、頼む。」


“別に構わないわよ。あなたが命令するなら彼女を調べることぐらい、お安い御用だわ・・・。だけど、その結果、万が一、あなたが一番恐れる事態だったら、どうするの?”


 さすがは、下級とはいえ、魔族。


 こちらが言いたいこと、恐れていることを瞬時に読み取り、痛いところを付いてくる。


「そんなの・・・。」


 決まっているだろう。


 彼女が俺の一番恐れている存在だとしたら・・・。


 取れる選択肢は一つしかない・・・・。