~由良~


 日本が治安国家だといわれた時代は終わった。


 いや、はじめからそんな時代などなかったのかもしれない。


 裏シティと呼ばれる場所は昼夜問わずに違法行為が繰り返されている。


 ドラック、女、さらには人の命まで。


 ここにお金で買えないものがあるとしたら、真実の愛とか、友情という、青臭いものぐらいだろうか・・・。


 その日の夜10時


 母の言いつけを破り、由良は、あるクラブに入っていった。


 一人踊る女性に、それを口説く社会人らしき男。公開セックスだってこの場では日常茶飯事。


 ここは今の日本がどのような場所かを痛切に物語っている・・・。


「久しぶりだな。」


 クラブの一番後ろ。


 踊る連中を尻目に、一人のひげを生やした中年の男性が声をかけてきた。


 室内はDJの音がうるさすぎて、いくら大声を出してもかき消されてしまうぐらいの騒音なのだが、中年男性の声は普通のいつものトーン・・・いや、小声に近い。


「突然、呼び出して申し訳ありません。」


 ソレに対して、中年の隣の青年・・・朝倉由良も中年と負けず劣らずの小声で返事を返す。


 お互いに視線は、正面。


 DJとダンスを踊っている人たちしか見てない。


 ソレが彼らの礼儀。