悠人は、必死にアラビア語で呪文を唱える。


“悪霊退散、悪霊退散”


 右手に祝詞が一面に書かれた手袋をつけて、魔方陣の外においてある聖水に手を伸ばす。


 本来は、こういう使い方をするために用意してあるわけじゃないのだが、時と場合だ。


 悠人は、部屋一面に聖水をばら撒いて、さらに呪文詠唱を続けた。


 それから、小一時間たっただろうか。


 悠人の視界が元に戻り、立ち上げるようになれる頃には、すっかり月は傾き、真夜中という時間が過ぎ去って言った。


「人間を召還してしまうなんて・・・。」


 天使を召還しようとして、悪魔を召還してしまった事例ならたくさん聞くし、自分も何度か経験がある。


 怪物、幽霊、妖怪の類だって良く聞く話だ。


 だけど・・・人間を召還してしまうなんて・・・。


 もちろん、意識だけの召還だったから今ごろ精神は肉体に戻り、夢ぐらいには思われているだろうけど、確実に顔は見られた。


 魔道師ギルドや、他の魔法使いが聞いたら、目を丸くしてメモを取りたくなるような出来事だが、今の悠人にとって見たら大失態以外の何者でもない。


 ましてや、先咲さんだなんてぇ~


「あ~明日から、ホントにどういう顔して学校に行けばいいんだよぉ~。」


 誰もいない祭壇の中で叫ぶ悠人の声は、どこか幼い子どもの泣き声に似ていた。


 いや・・・実際に泣いていたのだろうけど・・・。