「あなた、魔法使い?」
桜沢悠人が、同じクラスの先咲美琴にそんなコトを聴かれたのは、夏の暑い日の放課後、人気の居ない校門の前だった。
あまりに、唐突の質問に、悠人は思わず自分の正体をばらしてしまいそうになったぐらいだ。
昼間流した汗がすっかり冷やされ、背中が冷たい。
それ以上に、遠くで痛いほどの視線を感じる。
その数、四つ。
先ほどまで自分がポーカーをやっていた相手だと言うコトは、考えなくても分かった。
そもそも、どうしてこんなコトになったのか?
悠人は考えをめぐらせて見る。
全ての事件の発端は、赤塚学園、夕日がまぶしい放課後の教室での出来事。
そこで悠人は悪友たち5人でポーカーにいそしんでいたのだ。
最初は、低額ながらもお金を賭けてやっていたものの、そんなものはすぐに底をついてしまった彼らは、妥協案として『負けた人間は罰ゲーム』と言うものを思いついた。
その罰ゲームというのが、「自分が良いと思える女子に愛の告白をする」という、あまりに過酷なものだったから、コトの始末が悪い。
戦いは熾烈を極め、お互いに深い深い読みあいが始まり、長い間の死闘の末に、悠人の惨敗と言う形で終わったのだった。
そして、その悠人が戦いの前に指定したのが、自分の中ではクラス一美人であると思っている先咲美琴だった。
長いストレートヘアーに一重まぶたと、高すぎず、低すぎない鼻。
少しふっくらとしたほっぺたにも関わらず、細いボディライン。
そして、何よりも最近の若者らしくない、おしとやかで清楚な雰囲気がたまらない。
多少の鼻の周りにあるソバカスぐらいは愛嬌ってヤツだろう。
幼い頃からずっとイギリスに住んでいた自分にとってみては、夢にまで見ていた大和撫子。