チェリー


「詩織ちゃん」

コンビニで本を読み始めて、二十分。
肩を叩かれて振り返る。

「…和くん」

あまり大きな声は出せない。
暖かいお茶を買って近くの公園まで移動する。

「何があったん?」

「和くん、私な、和くんとは付き合えへん。謙太郎ちゃんが好きやねん。で、勢いで謙太郎ちゃんに告白してもうて…」

「フラれた相手を励ますんや」

そう言って、和くんは微笑む。
その嫌味にも取れる発言にびっくりして顔をあげると、和くんはまた笑った。

「詩織ちゃん。めっちゃ好きやで」

「え…」

「だから、謙太郎くんと幸せになって」

「でも、私…」

「詩織ちゃん、俺、今意外と辛いんやで。素直になってや」

「私…」

少し俯くと、和くんに抱き締められる。
暖かくて、目をつむった。

「…何してんねん」

「え」

頭の上からの声がした。
びっくりして思いっきり顔をあげる。

その声は聞こえてくるはずのない声。

「和也、離れろ」

「なんで?」

「なんでって…」

「詩織が俺を選んで抱き合ってるとしたらどないするん?」

「そんなん…許さへん」

謙太郎ちゃんの声が耳に届く。