「……そろそろ行くね。」


最後のひと口を飲み干して,私は椅子から立ち上がり,鞄に手をかけた。


「いってらっしゃい」

カチャカチャと食器を片付けながら,母は私を見送ってくれた。


玄関のドアを開けて,外の空気をいっぱいに吸い込んだ。


「ふぅ……いい天気ね」

空一面に雲ひとつ無い真っ青な色が,広がっていて,とても気持ちが良い。


《ーゆーびきり,げんまん…》


《ーうーそついたら,はーりせんぼん…》

《ーのーます,ゆびきったぁ〜…》



ーーーふと,頭に流れた懐かしいメロディー…。


そういえば…久しぶりに夢をみたんだっけ。


「懐かしいな…指切り…」

自分の右の小指を立てて,懐かしむように目を細めた。


「元気にしてるのかな……裕真君」

私は,空を見上げて,昔を思い出していた。
ーーーー

《僕,ニューヨークって所に引っ越すんだ》


私,篠宮舞華(シノミヤ,マイカ)が初恋をした相手…里中裕真(サトナカ,ユウマ)から,突然の別れの言葉を聞かされた。


ー胸が引き裂かれる思いだった。

私は,泣きじゃくって,彼を困らしたような気がする。


《指切りしようか》

…ポツリと彼が言った。


《ゆびきり…?》

《うん,僕達が将来大きくなったら,実現出来る約束だよ》


私は,キョトンと首を傾げると,


裕真君は,キラキラと綺麗な瞳を輝かせながら,微笑んで言った言葉…。


【大人になったら,結婚しよぅね】


その時の私にとっては,魔法のコトバだった。


ーーーー
ーー

「ふっ……今更思い出しても意味ないのにね。私,もう高校生だよ…」


眩しく輝く太陽に,手をかざすと自分の手が透き通って見えるようだ。



「あのコトバは,きっと…おとぎ話だったんだよね……」


足元にあった石ころをつま先で蹴り飛ばすと,コロコロ〜…と,静かに転がって行く。


……あんな幼い頃の約束なんて……