小さな声で、琴未さんが呟いた。 「何の期限ですか?」 「ここに居られる期限。」 「何でまた?」 「私、婚約者がいるの。よくある話でしょ。」 「だったらこんなとこいる場合じゃないでしょ。」 「だってつまんないもん…。」 手が止まる。 何不自由なく育ったけど、その不自由が履き違えられたタイプか。 「そのつまんない生活が今日から始まる生活で、どれだけありがたいかわかりますよ。」 別に厭味な訳ではない。